東京地方裁判所 昭和38年(ワ)6425号 判決 1963年12月11日
原告 柏熊恒 外一名
被告 国
訴訟代理人 横地恒夫 外一名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その四を原告柏熊のその余を原告金の各負担とする。
事実
原告柏熊の求める裁判及びその主張は昭和三八年(ワ)第六四二五号、同第六四二七号、同第六六五三号につき、別紙(一)ないし(七)、同第六七八七号につき、別紙(八)(九)のとおりである。
原告金の求める裁判及びその主張は別紙(一〇)(一一)のとおりである。
被告は主文同旨の判決を求め、原告らの主張事実のうち、別紙(一)ないし(三)の各第一項から第四項まで及び第五項前段、(八)の第一項から第六項(但し、第二項中原告柏熊が上告状に金二〇円の印紙を過貼したとの点を除く。)及び第八項、(一〇)の第一第二項、第四第五項及び第三項中原告金が反訴状に訴訟用印紙金四、四〇〇円を貼用したこと、昭和三七年九月二五日に弁論が終結されたこと、第六項中同原告が反訴状に金四、四〇〇円の印紙を貼用したこと、昭和三七年一一月二八日第一審裁判所に対し口頭弁論期日指定の申立書を提出したこと、裁判所が右申立に対し裁判をなさず訴訟記録を東京高等裁判所に送付したこと、昭和三八年一月二二日同原告が第一審裁判所に期日指定の申立書を提出したこと、同月三〇日右裁判所が右申立を命令をもつて却下したこと、第七項中同原告がその主張のような即時抗告をし、右抗告が東京高等裁判所第九民事部に係属していること、右抗告についてまだ決定をしていないこと、第八項中同原告が昭和三八年九月一三日東京高等裁判所第九民事部に対し訴訟費用印紙追貼書と題する文書にその主張の趣旨を記載し金二〇円の印紙を貼付したこと、以上の各事実は認めるが、その余の点は争うと述べ、昭和三八年(ワ)第六四二五号、同第六四二七号、同第六六五三号事件について次のとおり主張した。
控訴状は、それが本案判決の取消しを求めるものであつても、訴を却下した訴訟判決の取消しを求めるものであつても、控訴状である以上、これに貼用すべき印紙の額は、民事訴訟用印紙法が控訴状について定めるところによらなければならない。そして、同法は本案判決についてなした控訴と訴訟判決に対してなした控訴との間で控訴状に貼用すべき印紙の額について何らの差等を設けていない。同法の規定によつて貼用すべき印紙の最低額は、訴状については金一〇〇円、控訴状については金一五〇円、上告状については金二〇〇円である。しかるに、原告柏熊はその主張の各控訴状に各金一〇円の印紙を貼用したに過ぎなかつたのであるから、同原告主張の東京高等裁判所の各裁判長がその主張の各命令を発し、各控訴状にそれぞれ不足印紙金一四〇円を追貼させたことは適法であつて、これが違法であることを前提とする本訴各請求は理由がない。
原告らは甲第一号証の一ないし五を提出し、被告はその成立をいずれも不知と述べた。
理由
一 原告柏熊の各主張は、要するに、民事訴訟用印紙法に定める印紙額は、裁判所が国民のために裁判という司法行為を行うための司法手数料としての意味をもつものであるから、同法第二条、第五条に規定する訴額に応じて貼用すべき印紙額は、裁判所が司法制度の利用を許し、当事者の有する判決請求権に応じて実体判決(実体的請求権に対する実体判決の意味)をする場合に適用されるもので、司法制度の利用を拒否する訴訟判決については適用がなく、控訴、上告が訴訟判決に対する不服申立である場合には、同法第一〇条により一〇円ないし二〇円の印紙を貼用すれば足りるというのである。しかしながら、訴訟用印紙額が司法手数料であるということは、同原告の主張するとおりであるとしても、民事訴訟用印紙法が第一審において訴額に応じた印紙額を貼用させることとしたのは、事件の手数料をその内容の難易と切り離して訴訟物の価額により定めることとし、印紙の貼用を画一化することにより、事務能率と国民の利便を図ることを目的としたものというべきである。このことは、上訴状に貼用すべき印紙についても同様であつて同法は原審における判決内容のいかんにかかわらず訴訟物の価額を基準として、一律に、同法第五条に定めるところに従つて上訴状に貼用すべき印紙額を定むべきものとしているものと解すべきであり、同原告の主張するように原判決が訴訟判決の場合には、上訴状に貼用する印紙が実体判決の場合と異なり同法第一〇条によるべきであるとする合理的な理由はなく、現行法の解釈上も、同原告の主張を認めるに足る手掛りはない。ことに、上訴は、不服の対象となる原判決が実体判決の場合も、また訴訟判決の場合も、ともに上訴審における本案判決を求める申立である(原判決を取り消す旨の申立も、取り消し、または破毀して差し戻す旨の判決を求める申立も、ともに上許審における本案の申立であることは明らかである。)から、これらに対する申立印紙額に差等を設ける理由は何も見出すことはできず、同原告の主張はひつきよう法律に根拠のない独自の見解で、とるに足らないものというべきである。したがつて、同原告の右の点を理由とする本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなくすべて理由がない。
二 原告金の主張は要するに、反訴が併合要件を欠く場合には、これを独立の訴として扱い弁論を分離して審理すべきにかかわらず、当庁園田裁判官は違法にも同原告の反訴を併合要件を欠くとの理由で却下したため、同原告はこれに対する控訴を余議なくされ、その結果、控訴状に貼用すべき印紙額及び代理人の報酬額相当の損害を被つたというにある。なる程、反訴が本訴と併合審理される理由が訴訟経済を図る目的をもつことは明らかであり、この見地から反訴が要件を欠いて不適法な場合にも、これを独立の訴として取り扱うべき旨の学説も理解できないわけではないが、反訴の要件は、単に訴の併合要件であるばかりでなく、訴訟係属中の訴の提起である反訴それ自体の訴訟要件と解すべきであるから、不適法な反訴を独立して訴として扱わないとするわが国の実務の在り方が、当然違法であるということはできず、この見解の下に不適法な反訴を却下した裁判官に過失があるということはできない。したがつて、同原告のこの主張を前提とする本訴請求も理由がないといわねばならない。
よつて、原告らの各請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 白石健三 三和田大士 浜秀和)
別紙
(一) 第六四二五号 請求の趣旨
一、被告は、原告に対し、金九、一四〇円及びこれに対する昭和三八年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
請求の原因
一、原告は、昭和三七年一二月一〇日に、東京高等裁判所に対し、控訴人として、被控訴人を東京高等裁判所長官石田和外、外一名とする同庁昭和三七年(ネ)第二八九五号司法行政処分取消変更等請求控訴事件を提起したところ、右事件は、同庁第五民事部に係属した。
二、原告は、右事件の控訴状(以下本件控訴状という。)に民事訴訟用印紙として金一〇円を貼付した。
三、ところが、右第五民事部裁判長裁判官小沢文雄は、昭和三七年一二月一七日に、本件控訴状に「訴訟用印紙不足分一四〇円を貼用せよ」との補正命令を発した。
四、そこで、控訴代理人は、右小沢裁判長に対し、本件控訴は訴訟判決に対する控訴であるから、訴訟用印紙額は民事訴訟用印紙法第一〇条により金一〇円である旨を口頭をもつて異議申立てたが、小沢裁判長は、これを認めないので、止むなく、補正命令どおり金一四〇円を追貼した。
五、本件控訴は、東京地方裁判所が「本件訴を却下する。」と訴訟判決をしたのを不服として控訴し、「原判決を取消す。本件訴を東京地方裁判所に差戻す。」との趣旨の訴訟判決を求めるものであつた。
従つて、訴訟物の価額に従う訴状の一倍半の印紙を貼用する必要のないものである。
六、しかるに、右小沢裁判長は、その職務を行うについて民事訴訟用印紙法を理解しないという重過失によつて、違法に金一四〇円を徴収して、右金一四〇円の損害及び本件訴を提起せしめることによつて、これに要した本件代理人の弁護士報酬金一〇、〇〇〇円の損害を原告に加えた。
七、よつて、原告は、被告に対し右損害につき、金一四〇円及び金一〇、〇〇〇円のうちの金九、〇〇〇円の合計金九、一四〇円の賠償金の支払い、並びに右金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和三八年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による利息の支払を求めるものである。
(二) 第六四二七号 請求の趣旨
一、被告は、原告に対し、金九、一四〇円及びこれに対する昭和三八年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
請求の原因
一、原告は、昭和三七年一〇月一二日に、東京高等裁判所に対し控訴人として、被控訴人を東京高等裁判所長官石田和外、外一名とする同庁昭和三七年(ネ)第二三一五号司法行政処分の取消変更等請求控訴事件をもつて控訴を提起したところ、右事件は、同庁第五民事部に係属した。
二、原告は、右事件の控訴状(以下本件控訴状という。)に民事訴訟用印紙として金一〇円を貼付した。
三、ところが第五民事部裁判長裁判官小沢文雄は、昭和三七年一二月一七日に、本件控訴状に「訴訟用印紙不足分一四〇円を貼用せよ」との補正命令を発した。
四、そこで、控訴代理人は、右小沢裁判長に対し、本件控訴は訴訟判決に対する控訴であるから、訴訟用印紙額は民事訴訟用印紙法第一〇条により金一〇円である旨を、口頭をもつて異議申立てたが、小沢裁判長は、これを認めないので、止むなく、補正命令どおり金一四〇円を追貼した。
五、本件控訴は、東京地方裁判所が「本件訴を却下する。」と訴訟判決をしたのを不服として控訴し、「原判決を取消す。本件訴を東京地方裁判所に差戻す。」との趣旨の訴訟判決を求めるものであつた。
従つて、訴訟物の価額に従う訴状一倍半の印紙を貼用する必要のないものである。
六、しかるに、右小沢裁判長は、その職務を行うについて民事訴訟用印紙法を理解しないという重大な過失によつて、違法に金一四〇円を徴収して、右金一四〇円の損害及び本件訴を提起せしめることによつて、これに要した本件代理人の弁護士報酬金一〇、〇〇〇円の損害を原告に加えた。
七、よつて、原告は、被告に対し、右損害につき、金一四〇円及び金一〇、〇〇〇円のうちの金九、〇〇〇円の合計金九、一四〇円の損害賠償金の支払い、並びに右金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和三八年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による利息の支払を求めるものである。
(三) 第六六五三号 請求の趣旨
一、被告は、原告に対し、金九、一四〇円及びこれに対する昭和三八年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
請求の原因
一、原告は、昭和三七年一二月一〇日に、東京高等裁判所に対し、控訴人として、被控訴人を東京高等裁判所外一名とする同庁昭和三七年(ネ)第二八九四号司法手数料未使用証明等請求控訴事件をもつて控訴を提起したところ、右事件は、同庁第四民事部に係属した。
二、原告は、右事件の控訴状(以下本件控訴状という。)に民事訴訟用印紙として金一〇円を貼付した。
三、ところが右第四民事部裁判長裁判官谷本仙一郎は、昭和三七年一二月二〇日に、本件控訴状に「訴訟用印紙不足分一四〇円を貼用せよ」との補正命令を発した。
四、そこで控訴代理人は、止むなく、同月二六日に右補正命令どおり金一四〇円を追貼した。
五、本件控訴は、東京地方裁判所が「本件訴を却下する。」と訴訟判決をしたのを不服として控訴し、「原判決を取消す。本件訴を東京地方裁判所に差戻す。」との趣旨の訴訟判決を求めるものであつた。
従つて、訴訟物の価額に従う訴状の一倍半の印紙を貼用する必要のないものである。
六、しかるに、右谷本裁判長は、その職務を行うについて、民事訴訟用印紙法を理解しないという重大な過失によつて違法に金一四〇円を徴収して、右金一四〇円の損害及び、本件訴を提起せしめることによつて、これに要した本件代理人の弁護士報酬金一〇、〇〇円の損害を原告に加えた。
七、よつて、原告は、被告に対し、右損害につき、金一四〇円及び金一〇、〇〇〇円のうちの金九、〇〇〇円の合計金九、一四〇円の損害賠償金の支払い、並びに右金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和三八年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による利息の支払を求めるものである。
(四) 第六四二五、第六四二七、第六六五三号各共通
一、そもそも民事訴訟用印紙法の定める印紙額は、司法手数料であつて、裁判所が国民のために裁判という司法行為を行つてやるから、受益者負担の原則に従つて司法手数料を徴収するのである。
司法手数料は、財政法三条の定める「国が国権に基づいて収納する課徴金」に該当するもので、受益者負担の原則に従うからこそ訴訟物の価額に従つて算定するのである。
二、ところで、実体判決(本案判決は相対的な用語で不正確である。)は国民の判決請求権に応ずる判決であるが、訴訟判決は、実体判決をする前提要件に対する判決、即ち、それは訴訟手続を整理するための判決である。
従つて、訴訟判決に不服である控訴につき、訴訟物の価額に従う訴状の手数料の一倍半の手数料を徴収することは、常識で考えてもおかしなことで、全く合理性がなく、訴訟経済を撹乱するものである。
三、わが国の裁判所は、民事訴訟用印紙法を理解せず、司法手数料の徴収を軽視し、全くでたらめな徴収をしている。行政手数料については、行政庁は政令、省令及び通達を整備して、その正確を期しているが、わが国の最高裁判所は、その自主的、準立法権である裁判所規則制定権を十分に運用しないで、下級裁判所に違法な手数料を徴収せしめ、もつて司法における正義の実現を阻止しているのである。
本件訴は司法における正義を実現するために提起したものである。
(五) 第六四二五号 第一準備書面
一、原告は本件訴を提起することによつて次のとおりの損害を受けた。
二、原告は、本件事件の訴訟代理人岡部勇二との間において、昭和三八年七月二〇日に、本件事件を依頼することによつて、弁護士報酬として、金一万円を支払うことを約した。
三、原告は、小沢裁判長の不法行為によつて、本件訴を提起することを余儀なくさせられたので、右弁護士報酬に相当する金額の損害を受けたものである。
四、よつて、右損害に相当する金額の一部金九、〇〇〇円を被告に請求するものである。
(六) 第六四二七号 第一準備書面
一、原告は本件訴を提起することによつて次のとおりの損害を受けた。
二、原告は、本件事件の訴訟代理人岡部勇二との間において、昭和三八年七月二〇日に、本件事件を依頼することによつて、弁護士報酬として、金一万円を支払うことを約した。
三、原告は、小沢裁判長の不法行為によつて、本件訴を提起することを余儀なくさせられたので、右弁護士報酬に相当する金額の損害を受けたものである。
四、よつて、右損害に相当する金額の一部金九、〇〇〇円を被告に請求するものである。
(七) 第六六五三号 第一準備書面
一、原告は本件訴を提起することによつて次のとおりの損害を受けた。
二、原告は、本件事件の訴訟代理人岡部勇二との間において、昭和三八年七月二〇日に、本件事件を依頼することによつて、弁護士報酬として金一万円を支払うことを約した。
三、原告は、谷本裁判長の不法行為によつて、本件訴を提起することを余儀なくさせられたので、右弁護士報酬に相当する金額の損害を受けたものである。
四、よつて、右損害に相当する金額の一部金九、〇〇〇円を被告に請求するものである。
(八) 第六七八七号 請求の趣旨
一、被告は、原告に対し、金九、〇四〇円及びこれに対する昭和三八年九月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
請求の原因
一、原告は、昭和三六年一一月二七日に、最高裁判所に対し、上告人として、被上告人を訴外田中清堯とする東京高等裁判所(ネ)第五六二号損害賠償請求上告事件をもつて上告を提起したところ、右事件は、東京高等裁判所第七民事部に上告受理事件として係属した。
二、原告は、右事件の上告状(以下本件上告状という。)に民事訴訟用印紙として金四〇円を貼付した。(もつとも、右金四〇円のうち金二〇円は過貼したものである。)
三、ところが、右第七民事部裁判長判事牧野威夫(以下牧野裁判長という。)は、昭和三七年二月五日に、本件上告状に「訴訟用印紙七、九六〇円を貼付すべし。」との補正命令を発した。
四、そこで、原告は、昭和三七年二月一三日に、第七民事部に対し、同庁昭和三七年(ウ)第一三九号をもつて異議の申立をなしたところ、右第七民事部は、同年二月二三日に、右異議申立を却下した。
五、そして、続いて、牧野裁判長は、昭和三七年三月二六日に「本件上告状に法定の印紙を貼用せず、また当裁判所裁判長の貼用命令にも応じない。」との理由で上告状却下命令を発して、本件上告状を却下した。
六、なお、原告は、右上告状却下命令に対し、昭和三七年四月五日に、最高裁判所に対し、同庁昭和三七年(ク)第一五三号をもつて特別抗告を申立てたが、同庁第三小法廷は、同年六月五日右抗告を却下した。
七、してみると、原告は、牧野裁判長の違法な貼用命令に対し、不服を申立てて、原告の主張の適法を主張する当該訴訟手続上における手段は全くないということになるのである。
八、本件上告は、右第七民事部が「本件反訴訴訟は取下により終了した。」との訴訟判決をしたのを不服として「原判決を取消す。本件反訴を東京地方裁判所に移送するとの訴訟判決を求めて上告したものである。
九、従つて、本件上告は、訴訟判決に対し、訴訟判決を求めて上告したものであるから、本件上告状の貼用印紙額は、民事訴訟用印紙法第一〇条により金二〇円である。
一〇、原告は、前記本件反訴状である東京高裁昭和三六年(ネ)第一一〇八号損害賠償請求反訴事件に金六、〇〇〇円の訴訟用印紙を貼付して、実体裁判を請求したのに対し、第七民事部は一回の実体的審理もしないで、「本件反訴訴訟は取下により終了した」と違法な裁判をして、金六、〇〇〇円を違法に徴収したので、上訴したところ、またまた訴状の二倍の金八、〇〇〇円を納付しなければ裁判をしてやらないというのであるから、誠に困つたもので、原告としては、訴訟経済上耐えられないところである。
一一、以上の次第で、牧野裁判長は、その職務を行うにつき民事訴訟法及び民事訴訟用印紙法を理解しないという重過失によつて、違法な補正命令を発して原告の上告状を違法に却下して、右上告状に貼付してあつた貼用印紙金四〇円に相当する損害を原告に加えると共に、本件訴を提起せしめることによつて、これに要した本件代理人の弁護士報酬金一〇、〇〇〇円の損害を原告に加えた。
一二、よつて、原告は被告に対し、右損害につき、金四〇円及び金一〇、〇〇〇円のうち金九、〇〇〇円の合計金九、〇四〇円の損害賠償金の支払い、並びに右金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和三八年九月一四日から支払ずみまで年五分の割合による利息の支払を求めるものである。
(九) 第六七八七号 第一準備書面
一、原告は、本件訴を提起することによつて次のとおりの損害を受けた。
二、原告は、本件事件の訴訟代理人岡部勇二との間において、昭和三八年七月二〇日に、本件事件を依頼することによつて、弁護士報酬として、金一万円を支払うことを約した。
三、原告は、牧野裁判長の不法行為によつて、本件訴を提起することを余儀なくさせられたので、右弁護士報酬に相当する金額の損害を受けたものである。
四、よつて、右損害に相当する金額の一部金九、〇〇〇円を被告に請求するものである。
(一〇) 第六六五五号 請求の趣旨
一、被告は原告に対し、金九、六〇〇円及びこれに対する昭和三八年八月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
請求の原因
一、原告は、昭和三六年一一月九日に、東京地方裁判所に対し、反訴原告として、反訴被告を訴外田中清堯とする同庁昭和三六年(ワ)第八六七九号損害賠償反訴請求事件(以下本件反訴という)を、同庁昭和三五年(ワ)第六八七二号家屋明渡及び建物収去土地明渡等請求事件(以下本件本訴という)の反訴として提起したところ、右反訴は、右本訴の係属していた同庁民事第二三部裁判官園田治(以下園田裁判官という。)の係に係属した。
二、ところが、園田裁判官は本件反訴が、その併合要件を欠くとの理由で、昭和三七年一一月一〇日に判決をもつてこれを却下した。
三、原告は本件反訴状に訴訟用印紙として金四、四〇〇円を貼用していたので、園田裁判官が本件反訴につき証拠調べをしないで弁論終結をしようとしたので、本件反訴につき証拠調べを請求し、仮りに、本件反訴がその併合要件を欠く場合には、独立の訴としての要件を具備しているのであるから、弁論を分離して独立の訴として審理すべきであることを主張したが、園田裁判官は右主張を認めないで、昭和三七年九月二五日に弁論を終結した。
四、そこで原告は右裁判所に対昭和三七年一〇月一〇日に口頭弁論再開申立書を提出して、本件反訴につき証拠調べを請求すると共に、右同日第一準備書面を提出して、本件反訴は、併合要件の欠缺のみではこれを却下することができないこと及び仮りに併合要件を具備していないと認めるならば、弁論を分離して独立の訴として審理しなければならないことを申立てた。
しかしながら園田裁判官は、右申立に応答しないで、前記の通り同年一一月二〇日に、予期した通り、判決をもつて本件反訴を却下して了つた。
五、原告は、本件反訴につき昭和三七年一一月二七日に、控訴人として、東京高等裁判所に対し、同庁昭和三七年(ネ)第二七七二号家屋明渡及び建物収去等控訴事件(以下本件控訴という。)として、控訴を提起したところ、右事件は同庁第九民事部に係属した。
六、原告は、本件反訴状に金四、四〇〇円の印紙を貼用して、実体判決を請求したのに拘らず、前述の通り園田裁判官は民事訴訟法を理解しないという重過失に基づいて、本件反訴を違法に却下して了つた。
しかしながら本件反訴については、何等の実体裁判もないのであるから、原告は、本件反訴は前記却下の訴訟判決によつては終了しないで、今尚原審に残留して係属しているものと認めて、昭和三七年一一月二八日に原審に対し、口頭弁論期日指定申立書を提出して、園田裁判官に対し、本件反訴につき実体裁判である残部判決をすることを請求したが、園田裁判官は右申立に応答しないで、訴訟記録を東京高裁に送付させたので、原告は更に、園田裁判官に対し、昭和三八年一月二二日に口頭弁論期日指定申立書を提出して、原告が東京高裁において、本件反訴につき訴訟用印紙として金六、六〇〇円を貼付するよう補正命令を受けて困つていることを申立てたところ、園田裁判官は同年一月三〇日に右申立を却下する旨の決定をした。
七、そこで原告は、園田裁判官の右却下決定に対し、昭和三八年二月一一日に即時抗告をしたところ、右抗告は東京高裁昭和三八年(ラ)第七六号として、本案裁判所である第九民事部に係属したが、右第九民事部は右抗告について決定をしないで、原告に対し、更に訴訟用印紙金六、六〇〇円を貼用することを命じた。
八、それで原告は右第九民事部に対し、本件控訴は本件反訴の訴訟判決に対する控訴であつて、控訴の趣旨は、「原判決はこれを取消す。本件反訴を東京地方裁判所に差戻す。」という訴訟判決を求めるものであるから、その司法手数料は民事訴訟用印紙法第一〇条により金二〇円であることを申立て、右金二〇円の印紙を貼付したが、右第九民事部裁判官鈴木忠一はこれを認めないので、止むなく右金六、六〇〇円を追貼した。
九、以上要するに原告は、園田裁判官が、その職務を行うにつき民事訴訟法を理解しないという重過失によつて、違法に本件反訴を却下したため、本件反訴につき本件控訴を提起せしめられたことによつて、訴訟用印紙金六、六〇〇円の損害及び本件控訴に要した本件代理人の弁護士報酬金五〇、〇〇〇円の損害を受けた。
一〇、よつて原告は被告に対し、右損害金につき金六、六〇〇円及び金五〇、〇〇〇円のうち金三、〇〇〇円の合計金九、六〇〇円の賠償金の支払い並びに右金員に対する本訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による利息の支払を求めるものである。
(準備書面)
一一、わが国の学説判例は、本件のような場合即ち、反訴がその併合要件を具備しない場合には、単純にこれを却下できるものとしている。
そして、僅かに加藤正治(新訂民事訴訟法要論三八三頁)及び河本喜代之(新訂民事訴訟法提要一六〇頁)先生が、正当に弁論を分離して審判しなければならないと述べている。
一二、そもそも反訴は訴訟経済上認められた制度であるのに拘らず実体裁判をしないで、貼用印紙額を只取りされるのは、誠に訴訟経済に反するものである。
殊に、右のような違法な訴訟判決に対し控訴すると更に訴状の一倍半の手数料を徴収するというのであるから、わが国の裁判官の民事訴訟用印紙に対する無理解は誠に困つたものである。
一三、裁判官が民事訴訟法に反する違法な裁判をすると被告が儲かるということは、司法における正義に反することで、誠に許し難いことである。
よつて、司法における正義を実現するために本件訴を提起する次第である。
(二) 第六六五五号 第一準備書面
一、原告は、本件控訴を提起することによつて、次のとおりの損害を受けた。
二、原告は、本件控訴事件の訴訟代理人岡部勇二との間において、昭和三七年一一月二四日に、本件控訴事件を依頼することによつて、弁護士報酬金五万円を支払うことを約した。
三、原告は、園田裁判官の不法行為によつて、本件控訴を提起することを余儀なくさせられたので、右弁護士報酬に相当する金額の損害を受けたものである。
四、よつて、右損害に相当する金額の一部金三、〇〇〇円を被告に請求するものである。
五、なお、本件控訴につき、被控訴人に対し損害賠償を請求しないで裁判官の使用主である国に請求する理由は、本件控訴の原因が園田裁判官即ち国家公務員の公権力の行使即ち違法に訴を却下したために発生したものであるからである。
六、そもそも、本件控訴の趣旨は、「原判決を取消す。本件訴を東京地方裁判所に差戻す。」というものである。
被控訴人は形式上反訴被告の田中清堯となつているが、その不服の実質は、裁判所が違法に訴を却下して、裁判を拒否したことに対して向けられたもので、被控訴人に向けられたものではない。
換言すれば、園田裁判官が民事訴訟法を理解しないで、裁判を拒否したから、控訴審は、これを差戻して、もう一度、正当に実体につき裁判をするようにして下さいと控訴したものである。
従つて、右裁判官の違法な職務執行につき、被控訴人が損害賠償の責任を負担しなければならない筋合のものではないのである。
七、また、本件控訴が仮りに差戻しになつたとしても、原告が本件控訴を提起せしめられたことによつて受けた損害は、差戻審において回復することのできない筋合のものである。
八、裁判官の職務行為に対する国家賠償について、最高裁判所民事局第二課長西村宏一判事が、判例タイムズ昭和三八年一一月号臨時増刊第一五〇号で、「裁判官の職務活動と国家賠償」と題する論文を書いておられるが、右論文はわが国裁判所の代表的見解とみてよいものであるが、その内容は誠に貧弱なもので、法律を十分に理解していないものと認める。
即ち、西村裁判官は、わが国従来の裁判官と同様、裁判官の職務行為即ち「裁判をする」行為の内容には、実体判決と訴訟判決があることを知らないために、おかしな理論を展開することになつたものである。
裁判官の実体判決即ち、訴の趣旨に対する判断は、西村判事の主張するように「裁判官に悪意による事実認定又は法令解釈の歪曲がある場合のみ国家賠償の対象となり得る」ということは、賛成する。しかしながらその訴訟判決については裁判官は全面的にその責任を負担しなければならないものである。
それは、実体判決をするための手続違反であるから、裁判官の職権に基づく公権力の行使に該当するものであるからである。
九、園田裁判官は、原告が本件反訴をその併合要件が欠けるのみで却下するのは誤りであるから、よろしく弁論を分離して独立の訴として審理すべきことを、再三にわたり主張したのに拘らずこれを採用せず却下したものであるから、少くとも重過失責任があるものと認める。
よつて、本件訴は正当な請求である。